建築 と 茶の湯 の間

桐浴邦夫(KIRISAKO Kunio)の備忘録 茶室・数寄屋・茶の湯・ヘリテージマネージャーのことなど

『茶の湯空間の近代』第3報

今回の本は、近代の茶室や数寄屋研究の一つのたたき台としてつくりました。
というのも、この分野の研究者は非常に少なく、まだまだ十分に研究されていないからです。

一方、近代建築が次々に姿を消していきます。やむを得ぬものもあろうかと思いますが、可能なものは残していきたいものですね。
我々にできることは、その価値をしっかり発信すること。それはその建築、そしてその建築が建てられた経緯やその背景や周辺などのことについて多面的に発信することです。
一般の近代建築については、比較的多くの情報が発信されています。しかし近代和風についてはまだまだと言わねばなりません。
それでも町家や民家などは研究者も多いのですが、茶の湯空間についてはかなり厳しい状況です。研究者が少ないのです。
具体的な事例を挙げるならば、全国で近代和風の調査が行われその報告書が出版されていますが、地域によっては例えば平面図に茶室が3つもあるのに解説では一切触れられていない、というところがあります。何らかの事情があるのかも知れませんが、もしその著者がその知識をお持ちでないとするならば、かなり「痛い」ことです。
現実として、残念ながら建築史の専門家の中にも、そして伝統建築の保存活用にかかわっている人の中にも御存知ない方が多数いらっしゃいます。
じつは茶の湯空間をみるには少々知識が必要です。しかしそんなに複雑なことではありません。少し関連の本を読めばわかることなのです。研究者ならずとも興味がある方ならば基本的な理解は難しくはありません。
そして研究者の立場としては、歴史的な大きな流れやその周辺のことをお示しし、その価値を多くの人に理解していただけるよう、そしてその建築が後世に伝えられるように、その環境を整える必要を強く感じています。

日本の宝(近代の建築家からは、世界の宝、とも)と言っても良い建築が、数寄屋建築には存在します。残念ながら、ほとんど知られないまま、きちんと評価されないまま、みすみす「なかったもの」として扱われるのはあまりにも忍びないと思います。
本書は、そのような状況の改善に少しでも貢献できればと思い、記したものです。
多くの方々に加わっていただき、この分野の更なる発展を期待したいと思います。

『茶の湯空間の近代』第2報
『茶の湯空間の近代』第1報
www.shibunkaku.co.jp