建築 と 茶の湯 の間

桐浴邦夫(KIRISAKO Kunio)の備忘録 茶室・数寄屋・茶の湯・ヘリテージマネージャーのことなど

『茶の湯空間の近代』の読み方 その5

桐浴邦夫著『茶の湯空間の近代』の読み方 その5

本書は、学術書です。ただ同分野を研究あるいは知識をお持ちの方は、少ないようです。しかし筆者は、これが近代建築史において重要であると考え、出版いたしました。本ブログでは、数回に分けて、「『茶の湯空間の近代』の読み方」を記していきたいと思います。

その0 思文閣出版Webページより
その1 第一章 茶の湯空間の近代、その概要
その2 第二章 公の場所に設置された数寄屋
その3 第三章 明治期の茶室の文献
その4 第四章 大正期の茶室の文献
その5 第五章 昭和前期の茶室の文献(現在のページ)
その6 第六章 近代の安土桃山イメージ
その7 第七章 高谷宗範と松殿山荘

■ 第五章 昭和前期の茶室の文献

昭和になると、茶の湯空間への注目度が増す。本章は建築の雑誌の茶室や数寄屋の特集号を中心に論じる部分である。昭和を代表する建築家、堀口捨己吉田五十八なども積極的に意見を述べている。またこの時期、ブルーノ・タウトが来日し、桂離宮を絶賛したことでも知られる。
ちなみに、ここ20~30年ほど前から、タウトの言葉は日本の建築家によって「つくられた」ものとの説が出回るようなった。井上章一氏の論文『つくられた桂離宮神話』で、何度か再版されている。井上氏は批判されたというが、具体的な内容は聞こえてこない。批判するなら、具体的に示す必要があろう。
さて、タウトの言説はつくられたものだろうか。彼の言説を丹念に調べていくと、ドイツ在住時から日本に興味を持っていたが、ドイツでは日本のことがあまり伝わってこないと残念に思っていたそうだ。一方イギリスにはある程度伝わっていて、ウィリアム・モリスらに憧れていたと記されている。また来日前には数寄屋建築にも興味を持っていたと述べる。本章では井上氏の上記論文についても時々参照している。参考にすべきところは多いが、しかし全体の流れは意図的に選んだ文献を使用している。当然見ているはずの文献を無視しているのだ。もっとも本書は趣旨の違う他の論文を糾弾することを目的としたものではないので、脚注に記すにとどめている。丁寧に読んでいただけると、その部分も見えてくると思う。
ついでではあるが、また本書とは直接関係ないが、数年前「山上宗二記にみる茶室」を記した。ここでも、20~30年ほど前から信じられていた中村利則氏の「関白様御座敷二畳敷=待庵の祖形」説に疑問を呈した。中村利則氏の論文も参照にするところが多いが、意図的かどうかは不明だが、おそらく見ているであろう文献を落としている。結果、先の飛躍が大きすぎる説が生まれ、それを論拠に復元?という具体的な作業にまでおよんでいる。
これらはじつは本書の出版社(思文閣出版)とも関わりのあるものだ。このような私に、公正中立な立場で論文を書かせていただいて、感謝するしだいである。
論文には間違いがある(こともある)。本来は完璧であらねばならないが・・・人が書くものであるからやむを得ない部分もあると思う。しかし特に問題なのは、一つの説が呈示され、それが具体的に批判されることなく、繰り返し語られることである。本人に悪気はないかも知れない。しかし周りがそれをはやし立て、いつの間にかそれが常識となってしまう。本人も最初は少し引っかかっていたものが、いつのまにか忘れ去られ、ひとり歩きしてしまうのだ。誰かが批判する役割を負わねばならない。もちろん私の論文(世間にはさほど影響力は無いだろうが・・・)に誤りがあれば、気付いた方は是非お申し出頂きたいし、場合によっては論文で取り上げてご批判頂きたいと思うしだいである。
本書の内容に戻ろう。堀口捨己はいう。「今ここに現代建築の立場で、利休の茶室をとり上げる」と。先の武田の論文は利休に一つの到達点を見るが、その後の時代には興味を示していない。一方、堀口の立場は違う。利休以後の茶の湯空間についても評価が高い。
建築の各雑誌は昭和前期、茶室や数寄屋の特集号を組んでいる。本章ではそれを取り上げている。その概要の一部を記しておこう。

ある雑誌の数寄屋造特集号、本文を読んでいるとこれが数寄屋造?と思うような文章が多数寄せられているものがある。すなわち各建築家たちは、せっせと近代建築について記しているのだ。数寄屋造特集号に、である。そして最後の方に数寄屋造との接点を示す。またグラビアには堀口のモダニズム作品も掲載している。部分を見ただけでは、これが数寄屋造特集号だと誰も気付かない構成だ。またある雑誌の国際建築特集号にはせっせと数寄屋建築のことが記されている。これはブルーノ・タウトに因んだ特集号なので、およそ想像はできる。数寄屋をはじめ日本建築の近代性について多くのページをさいているのである。(あとは本書をお読みください)