建築 と 茶の湯 の間

桐浴邦夫(KIRISAKO Kunio)の備忘録 茶室・数寄屋・茶の湯・ヘリテージマネージャーのことなど

『茶の湯空間の近代』の読み方 その0

桐浴邦夫著『茶の湯空間の近代』の読み方 その0

本書は、学術書です。ただ同分野を研究あるいは知識をお持ちの方は、少ないようです。しかし筆者は、これが近代建築史において重要であると考え、出版いたしました。本ブログでは、数回に分けて、「『茶の湯空間の近代』の読み方」を記していきたいと思います。

その0 思文閣出版Webページより(現在のページ)
その1 第一章 茶の湯空間の近代、その概要
その2 第二章 公の場所に設置された数寄屋
その3 第三章 明治期の茶室の文献
その4 第四章 大正期の茶室の文献
その5 第五章 昭和前期の茶室の文献
その6 第六章 近代の安土桃山イメージ
その7 第七章 高谷宗範と松殿山荘

以下、思文閣出版Webページより

■内容
 高度な技術と類まれな空間構成と意匠をもつ数寄屋建築は、近代において世界から高い注目を集めるようになった。一方で国内において、近代の茶の湯空間についての研究は、建築史においても茶の湯研究においても主流とはならず、場合によっては否定的な見方さえされてきた。
本書は、近代数寄屋建築の数少ない専門家である著者が、茶の湯の系譜を考慮しつつ、「茶の湯空間」が近代においてどのように理解されてきたのかを読み解く試みである。近年、国内においても伝統建築の保存や活用についての関心が高まっている状況において、近代和風建築関連の諸研究の発展に寄与せんとするものである。

■担当編集より
 表紙の建物は、建造物としては京都府で299件目の重要文化財に指定される予定の松殿山荘です。「心は円なるを要す、行いは正なるを要す」という考えのもと、窓枠や天井など随所に方形と円を組み合わせた形が見られます。このような近代和風建築の不思議な和洋折衷空間は人々を魅了してきましたが、じつはこれらについての研究は意外にも少ないという事実があります。この本を契機にさらなる議論に発展することを祈っております。

■目次
はじめに

第一章 茶の湯空間の近代、その概要
 第一節 世界の視点・近代の視点からの茶の湯空間
 第二節 近代以前の茶の湯空間とその影響
 第三節 西洋文化の受容と茶室
 第四節 ジェントルマン・アーキテクトとプロフェッショナル・アーキテクト

第二章 公の場所に設置された数寄屋
 第一節 冬の時代に誕生した茶の湯空間
 第二節 明治初期の東京の公園と社交施設
 第三節 芝公園と紅葉館
 第四節 麴町公園と星岡茶寮

第三章 明治期の茶室の文献
 第一節 明治期の茶室と茶の湯の文献
 第二節 今泉雄作「茶室考」
 第三節 本多錦吉郎『茶室構造法』
 第四節 武田五一の茶室研究
 第五節 好古類纂・桂離宮と茶室

第四章 大正期の茶室の文献
 第一節 大正期の雑誌にみる茶室
 第二節 田園都市と田舎家と茶室

第五章 昭和前期の茶室の文献
 第一節 近代建築による茶の湯空間の再発見
 第二節 「茶室と茶庭」特集号
 第三節 「日本建築再検・数寄屋造」特集号
 第四節 「近代数寄屋建築」特集号
 第五節 「茶室建築」特集号

第六章 近代の安土桃山イメージ
 第一節 猿面茶室と愛知県博覧会
 第二節 豊臣秀吉と近代の茶室
 第三節 近代の利休イメージと茶室

第七章 高谷宗範と松殿山荘
 第一節 高谷宗範の建築活動
 第二節 芝川邸をめぐって
 第三節 松殿山荘

初出一覧
あとがき
索引

伝統建築工匠の技がユネスコ無形文化遺産への提案候補へ

「伝統建築工匠の技:木造建造物を受け継ぐための伝統技術」が本年度のユネスコ無形文化遺産(人類の無形文化遺産の代表的な一覧表)への提案候補として選定されました。
www.bunka.go.jp

私も末席に加えていただいている伝統木造技術文化遺産準備会「伝統構法をユネスコ無形文化遺産に」のwebページより
dentoh-isan.jp
署名など、ご協力頂いた皆さんに、感謝申し上げます。

『茶の湯空間の近代』刊行されました

拙著『茶の湯空間の近代』が、平成29年度科学研究費助成事業「学術図書」の交付を受け、思文閣出版より刊行されました。

内容は、これまでの論考のうち近代にかかわる部分をまとめ、一部関連の考察を加えたものです。

修士課程を出てからしばらくブランクがありましたが、10年程のち、偶然ですが一つの論文をまとめることになり、その後いくつかの論文を書くことができました。
そのうちの一つは、修士論文で扱った武田五一の茶室研究についてのことです。じつは修士公聴会ではボロボロだったのですが、基本内容は間違っていないと確信し、その十数年のちに少しだけ手を加え、黄表紙(日本建築学会論文集)に投稿し、採用されました。
今回はそれも含め、近代茶の湯空間のいくつかの側面について考察したものです。
今回は単著でありますが、もちろんさまざまな皆さまにご指導、ご協力賜りました。
中村昌生先生には、さほど出来が良かったわけでもない私を長く見守っていただき、折々にアドバイスを頂きました。特に「行間を読め」という言葉は、ずいぶん役に立ったように思います。論文は理詰めで記していくものであることは言を俟たないわけで、私自身もそのように努めています。しかし人の書くものであるかぎりは、いわゆる「行間」があります。他人のエッセイのみならず論文を読んだとき、その「行間」が見えてきたとき、「しめた」と思います。文字で記されていないそこからの拡がりを受け取ることができるからです。(このあたりのことも、「行間」に封じておいた方が良いのかも知れませんが)
そして鈴木博之先生には博士論文で大変お世話になりました。提出前に何度か研究室におじゃまし、さまざまなお話しをお伺いすることができたのは、論文を審査していただいたのと同様に(以上に?)私にとって大きな収穫でした。ジェントルマン・アーキテクトのこと、松殿山荘のことなどは今回の著作に生かすことができました。もっといろいろなことをお聞きしたいと思っていたのですが、短い間の師事となり残念です。
松殿山荘茶道会や千島土地株式会社、博物館明治村、その他多くの団体や機関に、調査に協力いただきました。感謝申し上げます。

なお、今後、もう少し近代のことをすすめることと、以前から扱ってきた近世(桃山・江戸)のことについて、これも後もう少し付け加え、まとめていきたいと思っています。
皆さまには、今後ともご指導ご鞭撻いただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

『茶の湯空間の近代』第3報
『茶の湯空間の近代』第2報
『茶の湯空間の近代』第1報

www.shibunkaku.co.jp
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『茶の湯空間の近代』第3報

今回の本は、近代の茶室や数寄屋研究の一つのたたき台としてつくりました。
というのも、この分野の研究者は非常に少なく、まだまだ十分に研究されていないからです。

一方、近代建築が次々に姿を消していきます。やむを得ぬものもあろうかと思いますが、可能なものは残していきたいものですね。
我々にできることは、その価値をしっかり発信すること。それはその建築、そしてその建築が建てられた経緯やその背景や周辺などのことについて多面的に発信することです。
一般の近代建築については、比較的多くの情報が発信されています。しかし近代和風についてはまだまだと言わねばなりません。
それでも町家や民家などは研究者も多いのですが、茶の湯空間についてはかなり厳しい状況です。研究者が少ないのです。
具体的な事例を挙げるならば、全国で近代和風の調査が行われその報告書が出版されていますが、地域によっては例えば平面図に茶室が3つもあるのに解説では一切触れられていない、というところがあります。何らかの事情があるのかも知れませんが、もしその著者がその知識をお持ちでないとするならば、かなり「痛い」ことです。
現実として、残念ながら建築史の専門家の中にも、そして伝統建築の保存活用にかかわっている人の中にも御存知ない方が多数いらっしゃいます。
じつは茶の湯空間をみるには少々知識が必要です。しかしそんなに複雑なことではありません。少し関連の本を読めばわかることなのです。研究者ならずとも興味がある方ならば基本的な理解は難しくはありません。
そして研究者の立場としては、歴史的な大きな流れやその周辺のことをお示しし、その価値を多くの人に理解していただけるよう、そしてその建築が後世に伝えられるように、その環境を整える必要を強く感じています。

日本の宝(近代の建築家からは、世界の宝、とも)と言っても良い建築が、数寄屋建築には存在します。残念ながら、ほとんど知られないまま、きちんと評価されないまま、みすみす「なかったもの」として扱われるのはあまりにも忍びないと思います。
本書は、そのような状況の改善に少しでも貢献できればと思い、記したものです。
多くの方々に加わっていただき、この分野の更なる発展を期待したいと思います。

『茶の湯空間の近代』第2報
『茶の湯空間の近代』第1報
www.shibunkaku.co.jp

『茶の湯空間の近代』第2報

『茶の湯空間の近代』1月刊行予定 - 建築 と 茶の湯 の間の第2報です。

本書は、近代における「茶の湯空間」のさまざまな側面についての論考です。
しかし、茶室や数寄屋の研究者が極端に少ないことを考慮し、わかりやすく概要も掲載しています。
各論についてもなるべくわかりやすく書いたつもりです。
内容を一部紹介しましょう。

  • 意外に思われるかも知れませんが、ブルーノ・タウトは、来日以前から数寄屋建築に興味を持っていて、さらに言うと少年時代から日本建築に興味を持っていたと述べています。(著名なI氏の論考では、それに関する部分はなぜか触れられていません。)
  • つまり茶室や数寄屋は、近代において西洋から大きく注目されていた建築だということができます。
  • 一方、日本においても、武田五一は新しい建築の動向を千利休の中に見出していました。
  • また堀口捨己の茶室研究は、過去のものではなく、現代建築としてみていたのです。

『茶の湯空間の近代』1月刊行予定

拙稿:『茶の湯空間の近代』(思文閣出版)が1月刊行予定です。

 高度な技術と類まれな空間構成と意匠をもつ数寄屋建築は、近代において世界から高い注目を集めるようになった。一方で国内において、近代の茶の湯空間についての研究は、建築史においても茶の湯研究においても主流とはならず、場合によっては否定的な見方さえされてきた。
 本書は、近代数寄屋建築の数少ない専門家である著者が、茶の湯の系譜を考慮しつつ、「茶の湯空間」が近代においてどのように理解されてきたのかを読み解く試みである。近年、国内においても伝統建築の保存や活用についての関心が高まっている状況において、近代和風建築関連の諸研究の発展に寄与せんとするものである。
―――思文閣Webページより

本書は、日本学術振興会からの科研費の補助を受けて発刊されるものです。
www.shibunkaku.co.jp
12/26現在、上記ページから、まだamazon等にリンクしていませんが、やがてつながると思います。

『茶室露地大事典』3月刊行予定

『茶室露地大事典』は3月に淡交社から出版されます。
淡交社のWebページに掲載されていましたので、リンクを張っておきます。
https://www.tankosha.co.jp/books/bookfair/3.html
参照k-soho.hatenablog.com